桧垣和人
ヒミツキチ 代表
千葉県のサムライ、桧垣和人さんが竹あかりのことを初めて知ったのは7年前。宮城県石巻市で行われた慰霊祭の様子をテレビ(日本テレビ「未来シアター」)で見たときのことだった。竹から漏れ出る優しい光が印象的だった。桧垣さんは震災後に毎年、石巻市にボランティアとして通っていた。防災士の資格も取り、震災と復興の現状を多くの人に伝えたいとの思いを強く持っていた。 2019年に猫の殺処分0を目標とした動物ボランティアの方々と展示をする機会があった。そのとき、ふと「看板を竹あかりでつくろう」と思い立つ。そのためには実物を見ようと東京で展示されていた竹あかりを見に行くこととした。点灯前に現地へ到着してしまったがどうしても点灯の様子を見たい一心で、夜の点灯まで4時間待つことにした。いざ点灯し、初めて実際に見た竹あかりに心を奪われた桧垣さん。忘れられない思い出となり、ますます竹あかりにのめり込んでいった。 2020年、「みんなの想火」のことを知りサムライへの立候補を検討するも、サムライの条件の一つために躊躇してしまう。それは「誰も排除しないこと」という一文だった。当時、近所に動物を虐待している人がいることを知っていた桧垣さん。もし「誰も排除しない」という条件を守るならば、その人が参加したとしても受け入れなければならない……そしてそのことは桧垣さんにとって到底受け入れられるものではなかった。結果として2020年はサムライではなくサポーターとして参加することを決意する。 2020年3月下旬に宮城県東松島市の防災宿泊体験施設「KIBOTCHA(キボッチャ)」にて行われた「宮城 狼煙上げ会」に参加した際、KIBOTCHA代表で宮城県のサムライであった三井紀代子さん(2021年はサポーター)と知り合った。桧垣さんの石巻市への思いや防災・竹あかりへの思いを汲んだ三井さんは、桧垣さんにKIBOTCHAで働かないかと打診。これを快諾した桧垣さんは8月からKIBOTCHAで働くこととなった。震災以降思い描いていた竹あかりと防災を実践すべく、桧垣さんは初の県外での生活を宮城県ではじめる一歩を踏み出したのだ。 桧垣さんは2018年6月、「ギラン・バレー症候群」という病気を発症している。これは突然手足が麻痺して動かなくなる難病で、桧垣さんはお腹をくだして足にしびれを感じた3日後には手も足も動かなくなってしまったのだという。1ヶ月の入院の後退院し、リハビリを通して少しずつ回復はしているものの、未だ完全には回復していない。そのため竹あかりを制作するにもインパクトすら重く感じるほどだという。 KIBOTCHAでの仕事や生活は充実はしていたものの、心身共に限界を感じ、2020年11月末に退職する決心をする。苦渋の決断だった。千葉県に戻り、妹の家で過ごした。1ヶ月くらいは辛く苦しい時期だったという。だが気づくと竹あかりが制作したくなってきた。最低限の道具を揃え、手近にある材料で竹あかりを制作した。妹の家の庭に設置したところ妹たちにとても喜んでもらえたことが嬉しかった。そして自分でつくった竹あかりに自ら火を灯し、自分で感動していることに気づいた。そのとき「竹あかりがあってほんとうに良かった」と感じたという。前向になり、元気になることができたのだ。 KIBOTCHAの前にも働いていた物流倉庫で再び働くことになり、合間に竹あかりの制作を続けた。2021年3月11日の慰霊祭を準備する中で、「今年はサムライとして立候補しよう」と思うに至った。そこには東松島市で三井さんが「来年の宮城県のサムライは桧垣さん!」と言ってくれたことも大きな理由だという。志半ばでKIBOTCHAを去ることになった後悔を、そして三井さんの想いに応えたいという気持ちが根底にはあった。 以前、ためらってしまった「誰も排除しない」というサムライの条件に関しては、「仮に動物虐待をしている人が参加したとしても、竹あかり制作を通じて優しい気持ちを持って虐待をしなくなってくれたらいいな」と思うようになったという。そこには桧垣さんの中で大きな変化があらわれていた。 震災以降、桧垣さんの中では常に「平和」を意識してきた。全国で一斉に竹あかりを灯すみんなの想火に対して桧垣さんは次のような思いを抱いている。「『誰もが平和だと思える日』が1日でもこの世にはあるべきだと思います。みんなで同時に優しい竹のあかりを見て、そういう日をつくれたらいい。最初は少なくてもそういう日がずっと続けていけたら、いつの日かほんとうに『誰もが平和だと思える日』が来るんじゃないかと思うんです。」 桧垣さんはこれまで制作した竹あかりをすべてプレゼントしてきた。だが「ヒミツキチ」という任意団体を立ち上げ、次第に販売にも力を入れていきたいと思っている。竹あかりは「楽しいし、綺麗だし、多くの人に見てもらいたい」との思いから、桧垣さんは今日も竹あかりを制作し、あかりを灯している。